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利益とキャッシュ増加額は一致しない/病院経営の指標・読み方Vol.06

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

利益が出ているのにキャッシュが減っているということが、よくあります。その原因がどこにあるのか、今回はこのことを確認したいと思います。

家計における現金主義

皆さんはキャシュフロー計算書を、毎月作成されていますでしょうか?

キャッシュフロー計算書を作成された方はご存知だと思いますが、毎月(もしくは毎年)の利益額とキャッシュの増加額は一致しません。一致すれば分かり易いのですが、利益が出ているのにキャッシュが減っているということが、ごく普通にあります。その原因がどこにあるのか、今回はこのことを確認したいと思います。

分かりやすくするために、家計に例えます。

毎月入ってくる給料よりも、生活費などの支払いが少なければ、その分、キャッシュが増えます(貯金ができます)。このときの支払いは、「いつ使ったか」ではなく、「いつ払ったか」が問題です。

1月に支払いが発生する生活費(家賃や光熱費やクレジットカードなどの支払い)は、1月に使ったものではありません。おそらく12月以前の使用分です。それでも、「払ったとき」に支出を考えて、貯金ができたか、赤字になったかを考えます。このような経理の考え方を「現金主義」といいます。

企業会計原則と発生主義

これは非常に分かり易いのですが、企業会計は現金主義を採用していません。企業会計原則の「費用収益対応の原則」というルールがあるからです。

この原則に則って考えると、今月発生した収益は、今月発生した費用と対応させて、今月の利益を計算します。医療や介護業界の場合、窓口負担分や自費分は先に入金しますが、保険請求分は翌々月にならないと入金されません。それでも、いつ入金するかに関係なく「今月発生した収益」になります。

まだ入金されていない収益でも、まだ支払っていない費用でも、今月の営業活動で発生したものは、収益・費用として認識します。これを「発生主義」といいます。

ここまで説明すると、「利益とキャッシュ増加額とが一致しないのは当然」であるとご理解頂けると思います。

保守主義の原則と借入・返済

さらに話を複雑にしているのは、貸倒引当金や賞与引当金といった科目です。これらは企業会計原則の「保守主義の原則」というルールから計上される勘定科目です。費用が発生しているわけでは無いのですが、発生する可能性を考慮して先に計上しているのです。その分、利益が少なくなりますが、現金は支払っていないので、キャッシュ増加額との間にズレが生じます。

さらに重要なズレがあります。それは金融機関や理事長などからの借入金です。借入金は一時的にキャッシュは入金しますが、いずれ返済しなければなりません。つまり、収益にはならないのです。支払ったときにも、キャッシュは出ていきますが費用にはなりません。借りたものを返しただけです。

このように、企業会計原則を守って経理処理をしている以上、利益とキャッシュ増加額は100%一致しないことになります。

利益を出すことと資金繰りを回すこと

では、逆に一致させる方法はないのでしょうか。理屈の上では、次のようなことを実施すれば、利益とキャッシュ増加額は近づいていくはずです。

  • すべてその場で現金収入とする。もしくは毎月(毎年)の収益を一定にする。
  • すべてその場で現金払いとする。もしくは毎月(毎年)の経費を一定にする。
  • 期末の在庫を0にする。もしくは毎年同額になるように在庫調整する。
  • 借入をしない。もしくは借りた額と同額を返済する。
  • 減価償却の対象となる資産を購入しない。
  • 貸倒引当金を計上しない。

これらの方法は、あり得ないことです。つまり、利益とキャッシュ増加額は必ず一致しないのです。

繰り返しになりますが、利益が出たからと言って、キャッシュが増えるわけではありません。収益・費用が発生するタイミングと、キャッシュが出入りするタイミングは一致しないからです。

裏を返せば、利益を出すということと、資金繰りを回すということは、別だと考えなければなりません。経営者は、「利益」も「資金繰り」も、同時に考えながら舵取りをしなければならないということです。

病院経営の健全化のために、いま必要な意思決定を議論します。

本稿の執筆者

藤原ますみ(ふじわら ますみ)
NKGRコンサルティング株式会社 取締役

クリニック・病院・社会福祉法人の財務会計に従事し、有料老人ホームの立ち上げにも参画する。現在は、病院の財務・管理会計の導入を通じた経営改善も担う財務のプロフェッショナル。公的機関主催の研修でも講師を多数務め、数字に苦手な受講者でも「今までで一番分かりやすかった」と、絶大な支持を得ている。

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本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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